「だって、貴女はここにいるはずのない人なんですから。ねえ、二〇四号室の住人さん?」
File.4 ゴースト・ハント(Ⅳ)
よろりと後ろにさがった足が古い床板を軋ませる。飲みこんだ唾の音でさえすべて筒抜けになりそうな、緊迫した静寂が満ちていた。
「貴女はこの部屋の住人ではない。隣の二〇四号室の住人です。至極簡単な、言ってしまえば小学生にだって思いつくトリックでした」
断定的な口調をもって虚偽を暴くと、彼女は怯えたようにさらに一歩後ろにさがった。
「トリック、って」
「貴女はとある目的のため、どうしても幽霊をでっちあげる必要がありました。しかし、そのために思いついた仕掛けは、貴女の本当の自室である二〇四号室では難しいものだったんです。雨漏りの位置や桜の木との距離、そういった諸処の条件を考えあわせた結果、貴女はひとつの結論にたどりついた。トリックの舞台にふさわしいのは隣室の二〇三号室だと」
突きつけるように、女の胸を指さす。
「貴女がおこなったのは、“入れかえ”です。昨日僕が来る前に、貴女はこの二〇三号室と自室である二〇四号室の表札をすり替えていたんですよ。二〇三号室の本当の住人である『青田』さんがまるで二〇四号室に住んでいるかのように、また本当は二〇四号室の住人である貴女が二〇三号室に住んでいるかのように。青田さんが長期の留守であることを利用してね」
仕掛けはそれだけじゃありません、と続ける。
「この大胆な仕掛けをカモフラージュせしめた鍵は、ポストです。貴女はトリックをより確実なものにするため、表札だけでなく、一階の集合ポストの名前も入れかえていたんです。そちらにいたっては丁寧に中身までね。あのあふれかえった二〇四のポストの中身はぜんぶ、二〇三号室宛のものだったんじゃないですか?」
彼女は答えるかわりに、引きつったようなぎこちなさで唾を飲みこんだ。
「『二〇四』『青田』と書かれたポストから中身があふれている。インパクトのある視覚情報は、強い先入観を生みます。はじめてここに来る人間は、誰から説明を受けずとも『二〇四号室』の青田さんは留守にしている、という間違った情報を刷りこまれたでしょうね」
「なぜそんな疑いをかけられなくてはならないのか、という根本的な疑問をいったん棚にあげて……純粋にあなたの話の内容だけを考えるとするなら」
ずっと黙っていた彼女がここでようやく口を開いた。
「たしかに安室さんのような外部の人ならだませるかもしれません。でも、そんな大胆なこと、ほかの住人には簡単に気づかれてしまうに決まってます」
「ところが、そうでもありません。古い住人ほど青田さんが留守の多い人物であることを知っている。彼らの中で『青田さん』と『あふれるポスト』のイメージは、むしろきわめて強い親和性を持っていたはずです。ポストがあふれていれば、そこはすなわち青田さんのポストに違いない。住人たちがそう思いこんでいたとすれば、視界の端に入りこんだあふれるポストの位置がいつもとすこし違ったとしても、青田さんのポストであると思いこんだ可能性は高い」
安室は彼女に詰め寄った。
「住人をだますのは難しい?違うでしょう。むしろ通常の状態をよく知る住人だからこそ簡単にだませたんですよ。見慣れているがゆえの錯視。住人の存在から目をそらさせ、違和感を偽装する二重の仕掛け。単純ではありますが、人の直観を利用した、たいへん効果的な手でした」
ぱちぱち、と気のない拍手をしてみせた安室を、トウコは唖然とした顔で見あげていた。
「そんな、何の根拠もないことをよくもここまで……」
「何の根拠もない?」
安室はどこ吹く風で応じた。
「貴女の本当の部屋がどこかは、それこそ大家にでも確認すればわかることです。が、そんな手間は必要ありません。さっき僕たちがこの部屋に入ろうとしたときに、貴女はわざわざ鍵を開けていましたね。門扉までたかだか十メートル、僕を迎えに行ってどうせすぐに戻るとわかっている部屋にいちいち施錠する理由は、ほぼないと言っていい。貴女は今日僕に会うまで、この部屋ではなく、自分の部屋―― 二〇四号室にいたのではないですか?」
「わ、私は!部屋を出る時には絶対に鍵をかけるようにしてるんです。防犯意識は人それぞれでしょう」
「たしかに。じゃあ、もうひとつ別の話をしましょうか」
安室はとうとう玄関から一歩踏みだした。さっきトウコが盛大に軋ませた木張りの廊下を一歩、一歩、何の音もたてずに近づいていく。
「あなたはポストの名前を入れかえました。でも、ひとつ大事なことを見落としていたんです」
「大事なこと……?」
「シールの文字ですよ」
トウコがはっとしたような顔になる。
「どうして北側で日光が当たりにくいはずの貴女の名前が日焼けで消えて、南側の『青田』はそのまま残っていたんでしょうね。貴女の主張どおり、青田さんが本当に二〇四号室の住人だったなら、より南側のポストである二〇四に貼りつけられた『青田』のシールは日常的により長く太陽光にさらされ、貴女のシールよりも色あせているはず。いや、たとえ日当たりにそれほど差がなかったとしても、少なくとも貴女のシールの方だけが消えて読めないなんてことにはなりません。どうでしょう、今からでも確認しにいきますか?」
答えなどはじめから期待していない問いかけだった。今やトウコの足はぶるぶると震え、立っているのも難しいくらいだった。
どうして、女がつぶやく。
ひどく震えた、かすれ声だった。
「どうして、私がわざわざそんなことをしなくちゃならないんですか。幽霊をでっちあげて、探偵までよんで。そんな理由なんて―― 」
「ある。あるんですよ、貴女には」
語尾をさらうように断定する。トウコは撃たれたように動きを止めた。
「貴女の目的はとある人物をここに呼びだすこと―― そう、この僕をね」
そこまで言って、彼はふと視線をやわらげた。
「正直なところ、貴女が『安室透』を呼びだした動機はもうわかっています。が、その気持ちはといえばまったく理解できません」
おどけたような口調と冷えた声音のギャップに我慢できなくなったのか、トウコはもつれるように一歩後退った。が、彼は今更そんなことを許してやるような男ではなかった。
彼女からすれば一瞬の出来事だっただろう。
腕がのびてきたかと思うと、視界がぐるりと一回転。したたかに打ちつけた背中の痛みで、黒い瞳がわずかにうるむ。
水気を振りはらうように女がふたたび目をみはったときにはもう、その身体は部屋の床に釘づけになっていた。
「そんなに慌てなくても、取って食べたりしませんよ。こう見えて、僕も驚いているんです。まさか、こんな子供だましにしてやられるなんて。ずいぶんと舐められたものだ」
してやられたと言いながらも、彼はけして不機嫌ではなかった。
獲物を追いつめることに何の感慨もおぼえないかと言えば嘘になる。仕事柄、これはきっと必要な性質だった。
つかんだ手首をじわじわと締めあげる。
「何するんですか、はなしてください!」
と、当の獲物の方は必死になって手足をばたつかせたが、もちろんまったく無意味な行為だった。単なる男女の体重差で押さえつけているわけではないのだから、どんなに暴れようが拘束がとけることはない。
しかしそのことを丁寧に教えてやるほど彼は親切な人間ではなかった。
全力の抵抗が通じず、切羽詰まった彼女はとうとうこんなことを叫んだ。
「暴行です!警察に突き出しますよ!」
予想もしなかった言葉に安室はきょとんと目を丸くした。そして盛大に笑いだした。
乱れた髪を荒っぽく掻きあげたあと、彼はふたたびトウコを見下ろした。
「警察だって?君が僕にそれを言うのか?」
口調を取りつくろうのも面倒になって、ぞんざいな物言いでそう告げた。そして拳を握り、そのまま、トウコの頭の近くにあった壁板をぶち破った。
予想の斜め上の暴挙に、彼女がおもわず「ひい!」と漫画のような叫び声をあげたのも無理からぬことだったろう。
突きやぶった壁の穴を探ると、指先に予想していたとおりの感触があたった。
手のひらに乗るほどのそれを乱暴につまみ出して、彼はトウコの胸元にこれ見よがしに突きつけた。
「これ、何かわかるよね」
ぎょっとしたような顔を見おろし、彼は鼻で笑った。
「おなじみ超小型CCDカメラ。俗にいう隠しカメラだ」
それから、と今度は自分の上着を脱いで、思いきり上下に振った。ころんころんと黒いチップのようなものが転がり出る。出る。出るわ出るわ。
「こっちは盗聴器。よくもまあこんなにたくさん」
そのうちのひとつを摘みあげて、安室はわざわざトウコの眼の前でひねり潰した。
そして、ポアロの勤務中にもめったに見せないような、きわみきった笑顔で最終結論を述べたのだった。
「ねえこれ、犯罪だけど?」
そこからのトウコの顔は、それはもう見ものだった。青くなったかと思ったら一瞬で白くなり、「あ」やら「い」やら金魚のように口をパクパク、最後はUFOが墜落するような勢いで眉毛がどんどん下がっていって、
「すみませんでしたー!」
寝転んだままでも額が床にめり込むほど、深い謝罪をかましたのだった。
「で、他には?」
ベッドに腰かけた彼は、しょぼくれた黒いつむじを見おろしながら足を組みかえた。
「逆さに振ろうが、絞ろうが、叩こうが、もう何も出ないです」
しょぼくれた黒いつむじことトウコは、彼の足元にはべるようにして床に正座中だった。古き良き、日本の『ごめんなさい』スタイルである。
「ごめんなさい」
「ごめんで済んだら警察は要らない」
すーん、とトウコは捨てられた子豚のような鳴き声をあげた。
が、彼は絶対零度に保った視線の温度を一度たりとも上げる気はなかった。その程度でどうにかなる段階はとうの昔に過ぎている。
今、部屋の床の上には押収された『資料』がところせましと並べられていた。さまざまな角度・場所から撮られたおびただしい枚数のそれらは、通常の手段では到底不可能なものばかりである。
見るに堪えない、本人としては今すぐにでも燃やしてしまいたいそれらのブツとはあろうことか、『安室透』の盗撮写真だった。
「まとめると、君は“桜の幽霊”をネタに、僕に接触し、隙を見て盗撮をおこなってきた」
「はい」
「そして、僕をこの隠しカメラだらけの部屋に呼びこみ、盗聴器を仕込み、この惨状を築いたと」
「……はい」
「さらにはこんなものまで」
「…………はい」
写真の隣に並ぶメモ―― 彼の日常をつぶさに書きつづったそれを目の前に突きつけたあと、彼は親の仇のように握りつぶした。ひえっ、と女が縮こまる。
なんだこの呪われたクソ案件は。
と、常のキャラクターをかなぐり捨てて、盛大に頭を抱えたい気分だった。
「依頼であれば無警戒に引きこめると考えたんだろうが、残念だったな。僕は依頼であろうが何であろうが、そのあたりにはかなり気を遣ってる。気付かないはずがない」
とはいえ、盗聴器を仕込まれてから気づくまでに若干のタイムラグがあったのは事実である。ありえない失態に腹わたが煮えくりかえりそうだった。
「断じて褒めているわけじゃないが、内容といい手口といい、素人のやることじゃないな」
たった一瞬であったとしても、素人に盗聴・盗撮を許すなど、彼にとってはあってはならないことだった。もしトウコがただの民間人だったなら、本業も副業も第三業もすぐさま廃業して、明日から田舎で作物でも育てよう、と彼は疲れた頭も相まってなかば本気で考えていた。
「実家が、錠前屋なんです」
トウコがぽつり、と意外な単語をこぼした。
「錠前屋?」
「はい。長野の山奥でほそぼそと続いてきた家業です。ですがこのご時世、錠前だけでは食っちゃあいけません。なので、父母の代あたりから盗撮防止用グッズやら新型シリンダーやらサーバー保守やらセキュリティ関連全般に片っ端から手を出しはじめたんです。となると、その娘としてはやっぱり自然にいろいろ覚えちゃうもので」
「ここの部屋の鍵を勝手に開けたのも?」
「そう」
「盗撮写真のデータを保存するために、海外のサーバーに不正アクセスして隠しデータベースを仕込んだのも?」
「だって普通にサーバーを借りたらお金が―― じゃなくて!」
釣り糸を垂らせば、いくらでも新たな疑惑がかかりそうである。
引っかけられているのがわかったのか、トウコはキッ、とこちらを睨んだが、眉毛が下がりきっているのでどうにも締まらなかった。
「これには、にっちもさっちもいかない、深い事情があるんです」
おゆるしを、と泣きついてくるトウコを彼は脚で軽くあしらった。
「念のため、その深い事情とやらも聞いておこうか」
「大学の友達が言ったんです。ポアロという喫茶店に超カリスマ・クール・ファンタスティック・フォーなイケメンが生息してるって」
「ほう」
「写真一枚五百円で買うって」
黒いつむじにおもわず拳骨が落ちた。不可抗力だった。
「痛ァ!な、なんてことするんですか!話は最後まで聞いてください。なんと音声は二千え―― 」
たんこぶにたんこぶが重なる。ダブルたんこぶである。
「こ、この痛み。安室さん、何か格闘技でも?」
「ボクシングを少々」
「なるほど、メモメモ。ちなみに趣味等、安室さんの個人情報については時価で―― 」
鉄槌。頭を抱えて涙目になったトウコを尻目に、彼は彼で苦々しく手首を振った。この女、かなりの石頭である。
「いかにも育ちのよさげなナリして、あなたなかなか暴力的ですね!」
「正当防衛だ、心の。君、自分が何を言ってるかわかってるのか」
「カネ目当ての犯行だと供述してます。そこらへんの変態目的のアマチュアや下劣なパパラッチと一緒にしないでください。こちとら孤高のプロストーカーです!私という猛獣を飼いならせるのはコレだけです」
チャリーン、と指で金貨の輪をつくり、トウコはゴルゴっぽいポーズを決めた。
「開きなおるなバカ。住居侵入罪はもちろん、軽犯罪法、ストーカー規制法、迷惑防止条例の各違反、よりどりみどりだ。よかったな、おめでとう」
倫理的にも刑法的にもアウトである。
トウコはがくっと床に崩折れた。
「だって、仕送りのない貧乏学生は辛いんです。何か売らないと食べていけないなら、自分じゃなくて当然安室さんを売りますよう。私ごときにお水の花道なんて到底ムリですもん。ほら、常にフェロモン系のオーラを振りまいてる安室さんだったら、その一部を形にして愛好家の皆さんにおすそ分けするくらいどうということもないかなって。全員ハッピーになれるかなって」
「ほかの人間に同じようなことを仕掛けたことは?あと、君にその依頼をした人物は?」
理解不能の釈明を無視して、矢継ぎ早に質問を射かけると、今までおちゃらけた様子だったトウコが、さっと表情を固くした。彼に視線を合わせ、断言する。
「安室さん以外にやったことはありません。本当です。あと依頼人は学校の友人なので、それ以上のことは何があっても黙秘します」
「嘘じゃないだろうな」
「私、隠しごとはしても、嘘だけは絶対に言いません」
彼は、はあ、とベッドにもたれかかった。
「わかった。だが、それと君を許すことは全くの別問題だ。僕に、このまま君を見逃すという選択肢はない」
ベッドから降り、トウコの身体の横に手をつく。顔を近づけると、嚥下する女の白い喉がよく見えた。
不安げに下がりきった眉の間へ、彼は撃ち抜くように人さし指をつきつけた。
「そうだな。取引をしよう」
「取引?」
「君は今後、僕の仕事に全面的に協力し、その特殊なスキルを僕の命じた仕事の遂行以外では決して使用しない。命じられた内容のいかんにかかわらず疑問なく了承し、逆らわず、詮索しない。仕事に関するあらゆる情報および今ここで交わされている内容について、いっさいの他言をしない。以上のすべてを完全に守りとおすかぎりにおいて、僕は君の罪をここに秘すると約束する」
彼女は座りこんだままぽかん、と彼を見上げた。
「つまり『黙ってて欲しかったら、働け』と」
「が、この話を受けるかどうかは君の意思による。逃げ道として縋りたいだけならやめておくように。僕としてもそういうお荷物はいらない」
トウコは、なんじゃそりゃ、という顔をしていた。彼女はしばらく考えて、もうひとつの可能性を問うた。
「じゃあもし、受けたくないと言ったら?」
「今すぐにでも君の身柄と証拠のいっさいを最寄りの警察署に持ちこむ。君がやったことは、れっきとした犯罪だからだ」
黒い瞳が、そのとき大きく見開かれた。彼の顔を穴があくほどじっと見つめている。何を驚くことがあるのか、とむしろこちらが疑問に思うような奇妙な反応だった。
今まで目にしたどれも違うその表情の真意を、彼は結局読みとることができなかった。
取りつくろうように、彼女はすぐに元の顔に戻った。目をそらし、床のあたりに見つめるトウコに、彼は言った。
「言うまでもないことだが。不当に社会のルールを破り他人に危害を加えた人間に本来、選択肢はない」
「だったら、私だって」
「勘違いしないでほしいな。君のために選択肢を用意したんじゃない。いちばん『プラスになる 』判断をしたら、そういう選択肢が生まれただけだ。やったことはやったこと、それに変わりはない。だから、あくまで、『働くなら、黙っててやってもいい』だ。君の言葉をなぞるなら」
何かを言いかけていた彼女は、またぽかんとして、彼を見上げた。今度は今までと同じ、途方にくれたあの顔だった。
すこし下がった眉がやはりどうにもコミカルで、むずったい笑いを誘われる。ずるいな、と彼は柄になく苦笑した。顎を上げさせ、視線を合わせる。
「これが最後だ。受けるかどうかは、自分で決めろ」
彼女はしばらくの間ぴこぴこと眉毛を上げたり下げたりせわしく動かしていたが、最後になって思いきったように視線を上げた。
「そこまで言ってもらっちゃ、それこそ選択肢なんてないですね」
引きむすばれていた唇が、にっ、と笑みの形をつくった。すこしこわばっているものの、きっとそれは今彼女にできる精一杯の顔だった。
「そのお話、受けさせてください。どんな仕事も疑問なく了承し、逆らわず、詮索しません。使えるものは何でも、お好きなように使ってください」
まだすこし不安そうな下がり眉のまま、だが、まっすぐな瞳でトウコは彼に約束した。
「成立だな」
そう言って視線を合わせると、トウコはその顔を交互に見てから、おっかなびっくり頷いた。
「ところで、安室さん。とっても今更な質問なんですけど。その、私が手伝う予定の、安室さんのお仕事って本当は何なんです?」
それは、彼の正体についての遠回しな質問だった。だが、彼は無論、笑ってこう答えた。
「いちばん最初に自己紹介したと思うけど?僕は安室透。探偵だよ」
「さて、初仕事だ」
「何なりと」
「十五分以内に、この部屋に散乱した“資料”をいっさいの痕跡なく消し去るように」
「で、電子データもですか」
「十五分後に一バイトでも残っていたら、君の社会的地位ごと抹消することも視野に入れる」
「安室さんって絶ッ対、探偵より悪の組織の参謀タイプですよね。『こちらブルーチーズ・ワン。応答願う』『こちらチェダーチーズ・ツー。ターゲットは始末した』みたいな」
「何か言った?」
「言ってません!はいはい安室先生、今すぐ片づけますよう!」