あの子は行ってしまった。
決して応えてはいけないと言ったのに。
しるしがついただけなら、まだ帰って来られる。
けれど通ってしまえば、もう二度とは戻って来られない。
神の細道に帰りはないのだから。
とおりゃんせ。とおりゃんせ。
私があの子を連れ戻す。私の、たったひとりの愛しい子。
例え禁を破ることになろうとも。常闇に彷徨いつづけることになろうとも。
幼いころこの手に預かった、哀れな男の昔語。
後ろの頁にはこうして、愚かな女のひとり語りを書き加えておく。
旅の友にはこの本だけを持って行こう。
かの男が私をあの子の元へ導いてくれはしないだろうか、という淡い期待をこめて。
とおりゃんせ。とおりゃんせ。