多くの罪を犯してきた。

 誰も救えず、ただ己だけがこの齢まで生き長らえた。穏やかな生活とは裏腹に、この心はひと時も休まることがなかった。

 罪人にはふさわしい生だったのかもしれない。

 この身は衰え、かつての力はすでにない。例えついに望みに届いたとしても、今生に戻ることは二度とできまい。

 力に溢れたあの若い時分でさえ、かの場所から抜け出せたのは奇跡のようなものだったのだから。

 それでもなお、私は今宵、再び罪を犯す。

 ああ、どうか許して欲しい。

 私はどうしてもあの子を―― たったひとりの妹を諦めることができない。例えこの身が人ともつかぬものに成り果て、さかいで永劫彷徨いつづけることになっても、あの子だけは。

 ああ、どうか許して欲しい。

 かわいい私の孫。哀れにも、私の力を唯一受け継いでしまった子。愛しい幼子。私はお前の母親に上手く愛情を教えてやれなかった。お前が親の愛を失ったのも、ひとりで生きなければならなくなったのも、全部私のせい。

 ああ、だからどうか許して欲しい。

 すべてをわかっていながらも、こうして私の膝に小さなこうべを預けるお前をひとりにして、ひっそりと黄昏に消えていくことを。

 私がお前に遺してやれるのは、空っぽの棺と哀れな男から預かったあの草子だけ。

 ああ、だからどうか。 

 許すことなどできない、というその声すら、私は聞き届けてやれないのだから。


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