06 ケチャップ・ソースの海
「そういえば、確かに添削をお願いしたね」
「もう、イチルったら忘れん坊なんだから」
人差し指を立てて、マリはおっとりと唇を尖らせた。
「でも、あれはニューヨークの親戚で……」
「まだしらばっくれるつもりなのね。昔は黙っていたけれど、あれはどう見てもニューヨークの人が使う英語じゃないわ」
「ですよね」
やっぱりバレてた。
シャンクスとの文通をきっかけに私は英文学科に進学した。うち一年は交換留学にも行ったため、今となっては「ニューヨークの親戚」がどれだけバレバレの嘘だったかよく理解している。
「でも、相手の所在が違うのはバレてたとしても、親戚じゃないってどうして分かったの?」
「内緒」
とマリは謎めいた表情で笑った。
「高校に入ってからもしばらく続けていたことは知ってるけど、その後、どうなったの?会ったりした?」
その質問にすぐには答えられなかった。
私立の高校に進学し、離れ離れになった彼女は手紙のことはもちろん、私のその後を詳しく知らない。心配させるのが分かっていたから、私もあえて言わなかった。
心の中のあれこれをまとめて、口を開こうとした時、ウェイターがやってきた。
「お待たせしましたあ」
学生時代にはいなかった若い店員が、注文の品をふたつテーブルに置いた。
黄色い卵を船に見立てたオムライスだ。ブロッコリーは飛び出た岩礁。ケチャップ・ソースの海を航海する船のてっぺんにはお子様ランチでよく見る海賊旗が立てられていた。
「あれ、なんか昔よりも大きくなってない?」
「イチルも大人になったのね。昔はまるまるひとつ食べても『小さい、まだ足りない』って言っていたのに」
冷めないうちにと、ふたりして熱々のライスを掬い上げた。