すぐ近くで、川の音が聞こえる。
ヒョロヒョロ、と水面を弾くような河鹿の声。
夜につやめく青草が、しっとりと頬を撫でた。
やわらかな月の光にはげまされ、一生懸命に夜道をゆく。
林の向こうから、歌声がする。
かすかで、おぼろげなそれ。
夜の底を震わせる、哀しくもなつかしい旋律。
あの曲の名前はなんだろう。
夜闇に耳を澄ませようとしたとき、己を呼ぶ声がした。
「XX」
立ち止まっていたことに気づき、慌てて駆けだす。
林を抜けると、一足先に待っている人影があった。
「XX」
もう一度名前を呼んでから、影が手を差しだしてくる。
迷うといけないから、と。
口角をいたずらっぽく上げた、いつもの笑い方だ。
手なんか繋いでくれなくたって平気なのに。
言いかえそうとした口とは裏腹に、手のひらは相手のそれをぎゅっと強く握りかえした。
ぬくもりにひかれて、また歩きだす。
すぐそばで、うたが聞こえる。
夜が見ていた、だれかの話。