すぐ近くで、川の音が聞こえる。

 ヒョロヒョロ、と水面を弾くような河鹿の声。
 夜につやめく青草が、しっとりと頬を撫でた。

 やわらかな月の光にはげまされ、一生懸命に夜道をゆく。
 林の向こうから、歌声がする。

 かすかで、おぼろげなそれ。
 夜の底を震わせる、哀しくもなつかしい旋律。

 あの曲の名前はなんだろう。
 夜闇に耳を澄ませようとしたとき、己を呼ぶ声がした。

XX

 立ち止まっていたことに気づき、慌てて駆けだす。
 林を抜けると、一足先に待っている人影があった。

XX

 もう一度名前を呼んでから、影が手を差しだしてくる。
 迷うといけないから、と。
 口角をいたずらっぽく上げた、いつもの笑い方だ。

 手なんか繋いでくれなくたって平気なのに。
 言いかえそうとした口とは裏腹に、手のひらは相手のそれをぎゅっと強く握りかえした。

 ぬくもりにひかれて、また歩きだす。
 すぐそばで、うたが聞こえる。

   

 夜が見ていた、だれかの話。


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